“アスリートは風邪をひきやすい”というオープンウインドウ説は本当?
第27回目のブログです。この冬もインフルエンザの流行が話題になっていますが、今回は運動と風邪、インフルエンザなどの感染症の関係について紹介したいと思います。
タイトルにある“アスリートは風邪をひきやすい”という話を聞いたことはあるでしょうか?これは単なる噂話の類ではなく、1990年代の医学研究で実際に報告されています。端緒となった論文では、ロサンゼルスマラソンに参加したランナーの大会後7日間における風邪の罹患率が12.9%であったのに対し、非参加のランナーの同時期の罹患率は2.2%であり、5.9倍も罹患率が高かったとしています1)。その後も同様の報告が続き、強靭な肉体を持つはずのアスリートが風邪をひきやすいという逆説的な現象は注目を集め、そのメカニズムが検討されました。その中でスポーツ医学の世界で最も受け入れられたのが、デンマークのPedersen教授の唱えたオープンウインドウ説です2)。
この説はマラソンのような過酷な運動を行うと、その3~72時間後の期間に免疫機能が低下してウイルスや細菌の感染症にかかりやすくなる、すなわち免疫防御の窓が開いてしまい、そこで病原体が侵入するという理論です。免疫機能が低下の要因としては、血中のリンパ球の減少、病原体を撃退するナチュラルキラー細胞の減少、粘膜で分泌されるIgA抗体の分泌低下が挙げられています。
長年、この説を支持する論文が複数発表されたのですが、近年その様相が変わってきており、懐疑的とする論文3)、さらには否定する論文4)が出現しています。否定派の論文では、まるで探偵が事件の謎解きをするがごとく、オープンウインドウ説の論拠となる事象の解釈の誤りを指摘しています。マラソンに参加したランナーが風邪症状を多く発症した理由については、調査自体がアンケート方式であり、自覚症状はあったとしても感染症ではなく、実は運動誘発性喘息などの呼吸器症状だった可能性、また、本当に風邪に罹患していたとしても、大会で多くの人々が集まる状況が感染の機会を作った可能性を挙げています。また、血中のリンパ球、ナチュラルキラー細胞の減少については、これらの細胞が体から無くなったのではなく、感染に曝されやすい肺、腸、皮膚の末梢組織に移動したためで、実は免疫監視の強化の方向に体が反応している結果だとしています。IgA抗体についても、唾液の分泌量は減少しているものの、IgAの機能自体は低下しておらず、実際の免疫機能の低下にはつながらないとしています4)。
この主張のポイントは、オープンウインドウ説で言われているような1回の高強度運動の後に免疫機能の低下は起こらないということです。もし、エリートアスリートが競技後に感染症に罹患しているとすれば、競技そのものが原因ではなく、競技前のオーバートレーニング、ストレス、等で体調を崩し、免疫機能が落ちたことでの感染の可能性が考えられるとしています。特に減量を伴うようなボクシングなどの競技では栄養不足と継続したオーバートレーニングにより免疫機能が落ちてしまうことが示されています5)。
オープンウインドウ説を提唱したPedersen教授も2007年以降はこの説に関する論文は出しておらず、適度な運動が免疫機能を高めるという主張のみをされているようです。我々一般人の運動であれば(オーバートレーニングをしているのなら別ですが)、まず免疫機能が落ちることなどはないと考えて良いと思いますので、風邪流行の時期にも心配なく運動してください。ただし、汗をかいたまま体が冷えるようなことがあると、体温低下により免疫機能の低下につながる可能性があるので、気をつけてください。
資料
1) J Sports Med Phys Fitness. 1990; 30(3): 316-28.
2) Sports Med. 1995; 19(6): 393-400.
3) Sports Med Health Sci. 2024; 6(2): 139-153.
4) Front Immunol. 2018; 9: 648.
5) Int J Mol Sci. 2026; 27(1): 508.
“運動は薬”外来の詳しい内容はこちら
https://www.miyanomori.or.jp/undou/
<プロフィール>
鐙谷 武雄(あぶみや たけお)
当院副院長、専門は脳神経外科で、中でも脳血管障害(基礎研究に長らく従事してました)
運動習慣は、出来るだけ毎日のストレッチと8㎏ダンベルでの筋トレ、週2回程度のランニング、不定期の10分間HIIT(高強度インターバルトレーニング)、たまのゴルフです
