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細胞内のリサイクル機構であるオートファジーは運動で活性化されます。

更新日:2026年05月22日
〝運動は薬〟外来

第29回目のブログです。昨年末、2名の日本人研究者(末梢性免疫寛容を発見した坂口教授、金属有機構造体を開発した北川教授)がノーベル賞を受賞したことは、記憶に新しいところです。今回は、2016年に大隅教授が同賞を受賞したオートファジーを取り上げ、運動との関連について紹介したいと思います。

オートファジー(Autophagy)は、細胞内のリソソームという小器官がタンパク質を分解する現象を指します。語源はギリシャ語の“auto(自分)”と“phagy(食べる)”に由来しており、文字通り「自らの細胞成分を食べて分解する」という意味です。この現象自体は1960年代に発見されていましたが、長らくそのメカニズムや生体内での役割は不明なままでした。1980年代、大隅教授は当時「細胞内のゴミ溜め」程度に考えられていたオートファジーを研究テーマに選び、根気強い顕微鏡観察と分子生物学的解析の結果、オートファジーが単なる廃棄処理ではなく、細胞内の「リサイクル機構」として生存戦略に不可欠な役割を担っていることを解明しました1)。現在では、この機能が低下することで、老化の加速やさまざまな疾患の発症につながることが明らかになっています2)

線虫という下等動物からヒトに至るまで、このオートファジーの現象は共通に認められ、線虫を用いた研究では飢餓状態がオートファジーを効率よく誘発することが示されており、ヒトでも同様にある一定の絶食期間を置くことでオートファジーが誘発されます。その他、オートファジーの活性化因子としては、食習慣、運動、睡眠、温度ストレス、薬物などがあります。この中で運動も注目される因子として近年研究が進んでいます。

運動の中ではランニングや水泳などの有酸素運動、またスクワットや筋トレなどのレジスタンス(抵抗)運動が、それぞれ違う経路を介してオートファジーを誘発すると考えられています3)。もっともヒトの体内でのオートファジーのモニタリングが難しいことより、前述のどの運動方法をどの程度行うことが最も効率的なのかについては、まだよく分かっていません。今後の研究を待たねばならない部分は多いのですが、老化を抑え、疾患予防につながるとすれば、このオートファジーを意識して運動を行っていくことは健康維持において極めて重要と言えます。特に最近では、運動によるオートファジーの機能維持がアルツハイマー病の進行予防になるのではないかと注目されています4)、5)

また大隅教授とともにオートファジー研究を牽引してこられた吉森教授は、オートファジーの抑制因子であるルビコンを発見され6)、これを減らすことがオートファジーの機能維持には重要と提言されており、そのためには高脂肪食を避け、腹八分の食事とし、就寝3時間程前には夕食は済ませ、睡眠をしっかりとり、適度に運動することを薦めています。これはいわば、現代科学によって裏付けられた養生訓と言えるでしょう。当たり前のことのように聞こえますが、誘惑の多い現代生活でこれらを守ることは案外大変かもしれません。しかし、科学の力で確からしさが示されている養生訓であれば、皆さんも納得して日々の生活に取り入れられるのではないでしょうか。

参考文献
1) Cell Res. 2014; 24(1): 9-23.
2) Nat Rev Mol Cell Biol. 2018; 19(6): 349-364.
3) J Adv Res. 2025; 76: 271-291.
4) Alzheimers Dement. 2026; 22(2): e71191.
5) Int J Mol Med. 2026; 57(4): 84.
6) Nat Cell Biol. 2009; 11(4): 385-96.

“運動は薬”外来の詳しい内容はこちら
https://www.miyanomori.or.jp/undou/

<プロフィール>

鐙谷 武雄(あぶみや たけお)
当院副院長、専門は脳神経外科で、中でも脳血管障害(基礎研究に長らく従事してました)
運動習慣は、出来るだけ毎日のストレッチと8㎏ダンベルでの筋トレ、週2回程度のランニング、不定期の10分間HIIT(高強度インターバルトレーニング)、たまのゴルフです