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運動と体重の関係は一筋縄ではないですが、運動により疾患の誘因となる脂肪を減らすことは出来るようです

更新日:2024年04月23日
〝運動は薬〟外来

〝運動は薬〟外来のブログの第7回目です。今回は運動と体重の関係についてお話ししたいと思います。結論から言いますと、痩せるためには運動よりも食習慣改善(過食を止める)の方が効果は大きく、運動だけでは痩せられない場合もある、となります。運動はエネルギーを消費し脂肪組織を燃焼することで体重を落とすことが出来ます。そこで運動をたくさんすればするほどエネルギー消費量も増加すると思われがちですが、実はそう簡単ではありません。これは運動量を増やすと、運動をしていない時間帯の身体活動のエネルギー消費が抑制され、結果的に総エネルギー消費量を一定に保とうとする生体の反応が起こるためです。痩せようとしても体重が変わらない“停滞期”が生じることがありますが、この生体反応が関与していると考えられます。ただし、運動によって疾患の誘因となる脂肪組織を減らすことができるので、その研究結果を後半で紹介したいと思います。

脂肪組織は、肥満の源として忌み嫌われていますが、実はエネルギーの貯蔵庫としての働き、体温を維持する働き、ホルモン代謝などの重要な役割を担っています。食物を得にくい原始時代には生命維持的に活用されていたと思いますが、飽食の現代では過剰な脂肪沈着は肥満となり、健康面に問題を起こしています。特に脂肪がどこに沈着しているかにより、疾患リスクに大きな差があることが分かってきており、注意が必要です。脂肪の沈着部位としては、皮下脂肪、内臓脂肪がありますが、内臓脂肪過多は疾患リスクを高めます。脂肪細胞からはアディポカインと呼ばれる生理活性タンパク質が分泌されますが、内臓脂肪過多では、その分泌異常により、炎症を惹起し、血圧を高め、血栓を溶けにくくし、インスリン抵抗性に働き、動脈硬化、血栓症、糖尿病の誘因になると言われています。新型コロナ感染症で肥満者に重篤なケースが多かったのも内臓脂肪が関与した過度の炎症の波及が要因であるとされています。

このため、内臓脂肪を減らす効果的な運動ついての研究が近年盛んとなっています。ネット記事では内臓脂肪は付きやすく落ちやすいとの記載が多く目立ちますが、論文のデータをみると内臓脂肪を落とすのは皮下脂肪より運動量を要するとの結果があります1)。そして運動の内容でみると、非常に強度の高い運動を短時間のインターバルで繰り返す方が、軽強度の運動を持続する有酸素運動より内臓脂肪を落とす効果が大きいことが報告されています2)。これは肥満被験者に4か月のトレーニングを行って内臓脂肪の変化を調べたものですが、フィットネスバイクで6秒間の全力ペダルこぎ/9秒間休憩の繰り返しを40回、計10分間の運動を行ったグループでは20%減少していたのに対し、持続可能なペースでのペダルこぎを50分間行ったグループでは5%にも満たない減少となっていました。このような非常に強い負荷を繰りかえし行う運動はSprint Interval TrainingSIT)、High Intensity Interval TrainingHIIT)と呼ばれており、このタイプの運動の疾患予防効果について近年注目が集まっています。これらの運動の内容、効用についてはまたの機会に紹介したいと思いますが、内臓脂肪を運動で落とすにはそれなりにきつい運動をインターバルで行うことが必要なようです。ただ、最初に述べましたが過食を止めることがまずもって重要ですので、その点は押さえておいて頂きたいと思います。では、食生活改善と運動で理想の体型と健康の両方を手にしてください。

文献
1) Obesity 2009;17 Suppl 3:S27-33
2) Scand J Med Sci Sports. 2021;31(1):30-43

“運動は薬”外来の詳しい内容はこちら
https://www.miyanomori.or.jp/undou/

<プロフィール>

鐙谷 武雄(あぶみや たけお)
当院副院長、専門は脳神経外科で、中でも脳血管障害(基礎研究に長らく従事してました)
運動習慣は、出来るだけ毎日のストレッチと8㎏ダンベルでの筋トレ、週2回程度のランニング、不定期の10分間HIIT(高強度インターバルトレーニング)、たまのゴルフです。