ブログ

運動にはアンチエイジング(抗老化)作用があります

更新日:2025年07月25日
〝運動は薬〟外来

21回目のブログです。今回は老化を防ぐ、つまりアンチエイジング(抗老化)における運動の効果について紹介します。「アンチエイジング」という言葉は、美容業界で広く使われ、若々しさを保つための治療やケアを指すことが多いですが、本稿では医学的な観点から運動の抗老化作用について話を進めて行きたいと思います。

抗老化を語る上では、まず老化のメカニズムを理解する必要があります。老化は細胞レベル、臓器レベル、個体レベルの各段階で様々な変化が生じることが知られています。細胞レベルでは正常細胞で見られる細胞分裂がある回数を境に停止してしまうことを細胞の老化現象として捉えています。DNAの損傷を防ぐ役割をしている「テロメア」という染色体の末端の構造が、細胞分裂を繰り返すごとに短縮して、最終的に細胞分裂が出来なくなります。そして、老化した細胞は異常な形態となり、正常な働きをしなくなります。臓器組織レベルの老化では、心臓などの筋肉臓器であれば収縮力の低下、肝胆膵などの分泌臓器であれば分泌能の低下、腎臓ではろ過機能の低下があり、さらに各臓器の縮小化、組織線維化などの変化が生じます。個体レベルの老化では、運動能力、感覚機能、認知機能、摂食・消化機能、免疫機能など、生命維持に関するあらゆる機能の低下が現れます。こうした老化の進行を遅らせることが抗老化であり、運動がこのプロセスにどのような作用を持つのか、近年の研究から見ていきたいと思います。

まず、細胞老化に関係するテロメアの長さと運動との関連についてですが、12件の系統的レビューをまとめた結果によると、運動にはテロメアの長さを維持する小〜中程度の効果があるとされています。有酸素運動や持久系トレーニングでは効果は小程度ですが、高強度インターバルトレーニング(HIIT)では中程度の効果が確認されました1)。臓器組織の抗老化に関連する近年の注目トピックとして、「エクサカイン(exerkine)」という概念があります。これは、運動によって体内で分泌される生理活性物質の総称で、「exercise:運動」と「cytokine:サイトカイン」を組み合わせた造語です。エクサカインはホルモン、代謝産物、タンパク質、核酸の多岐にわたる物質から構成されており、筋肉や脂肪組織など体内の多くの臓器から分泌され、各臓器に対して抗老化的に良い効果があります。心臓では心筋細胞の増殖、筋肥大、脈管形成、脳神経系では認知機能の維持、筋組織では筋肥大、筋線維の修復促進、ブドウ糖取り込み促進、肝臓では糖代謝の改善といった作用が報告されています2)。このエクサカイン研究において、近年、注目されているのが、乳酸の再評価です。運動時に筋肉で産生される乳酸は、かつて「疲労物質」や「老廃物」と考えられていましたが、実は重要な生理機能を発揮する代謝産物であることが近年明らかになり、エネルギー代謝、細胞間コミュニケーション、神経機能、運動適応、免疫応答など、多様な生理的プロセスに関与する代謝・シグナル分子として再認識されつつあります3)

運動のアンチエイジング(抗老化)の研究は日進月歩といったところで、今後ますます色々な研究成果がでてくることと思います。今回ご紹介した「テロメア」「エクサカイン」というキーワードに注目しながら、最新の研究動向にも関心を持っていただければ幸いです。

資料
1) JMIR Aging. 2025; 8: e64539.
2) Nat Rev Endocrinol. 2022 (5): 273-289.
3) J Appl Physiol. 2023; 134(3): 529-548.

“運動は薬”外来の詳しい内容はこちら
https://www.miyanomori.or.jp/undou/

<プロフィール>

鐙谷 武雄(あぶみや たけお)
当院副院長、専門は脳神経外科で、中でも脳血管障害(基礎研究に長らく従事してました)
運動習慣は、出来るだけ毎日のストレッチと8㎏ダンベルでの筋トレ、週2回程度のランニング、不定期の10分間HIIT(高強度インターバルトレーニング)、たまのゴルフです