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運動時の水分補給で気をつけることは?

更新日:2025年09月09日
〝運動は薬〟外来

22回目のブログです。今回は運動と補水に関するトピックスを取り上げます。

近年の猛暑により、脱水症や熱中症のリスクが高まっており、水分補給の重要性が以前にも増して強調されるようになりました。運動中は発汗によって体内の水分が失われるため、水分補給が欠かせません。マラソン選手にとってレース中に上手に給水することは良い結果を出すために重要であることは言うまでもありません。しかし、運動中そしてその前後にどのように水分を補給するのが望ましいのかについては、まだ十分に知られていないように感じます。

軽度の脱水であってもアスリートの競技中の運動パフォーマンスの低下を招くことが示されています。この運動パフォーマンスの低下は酸素摂取量の低下に起因しており、循環血液量の減少による心拍出量の低下が原因と考えられます。軽度の脱水でも運動パフォーマンスが低下することは、高温条件下で運動パフォーマンスが低下してしまう理由に脱水が関与している可能性を示唆しています1)

補給する水分としては、水の他、スポーツドリンクが使用されていますが、スポーツドリンクはその内容成分から、アイソトニック飲料、ハイポトニック飲料があります。アイソトニック飲料は体液とほぼ同じ浸透圧で、ハイポトニック飲料は体液よりも低い浸透圧です。浸透圧の違いは液体の移動に関わっており、膜の間では浸透圧の低い方から高い方へ液体が移行します。このため、ハイポトニック飲料の方が腸管での吸収がより速いとされています。運動中の水分補給に関する28件の研究をまとめた分析結果では、ハイポトニック飲料がアイソトニック飲料、無添加の水より水分吸収の点で優っていたと報告されています2)

運動中およびその前後における好ましい水分補給の方法については、全米ストレングス&コンディショニング協会からの推奨3)がありましたので、以下ご紹介します。

【運動前】
運動を始める前には、正常な水分状態および正常な電解質バランスを保っていることが重要です。そのためには、果物や野菜などの水分含有量の多い食品と水分を日中に意識的に摂取することが勧められます。運動の4時間以上前には、体重1kgあたり57mlの水分を摂取するのが良いとされています。しかし、競技前に水だけで過剰水分補給を行うのは避けるべきで、体内のナトリウム濃度を薄めて低ナトリウム血症(水中毒)のリスクを高める可能性があるので、糖、電解質が添加されているスポーツドリンクで摂取するのが良いでしょう。

【運動中】
運動中の目標は、体重の2%を超える脱水と、電解質バランスの大きな変化を防ぐことです。運動時間が6090分以上に及ぶ場合は、1020分ごとに68%の糖質・電解質飲料を90240ml飲むことが推奨されます。ナトリウムを含む飲料やスナックは喉の渇きを刺激し、水分保持を助けます。加えて、タンパク質を含むスポーツドリンクは水分保持をさらに高める可能性があります。

【運動後】
運動後は水分・電解質の損失を完全に回復することが重要です。体重減少分の150%に相当する量の水分を、6時間以内に摂取する必要があります。水だけでも再水和は可能ですが、ナトリウムや塩化物を含む食べ物やスポーツドリンクを併用すると、電解質も補給できて効果的です。

近年、マラソンにおける水中毒の注意喚起がなされるようになっています。マラソンの前、最中に水だけを多量に摂取していると、血中のナトリウム濃度がさがってしまい、軽度では疲労感、頭痛、中等度では嘔吐、筋肉のけいれん、重度では意識障害を来します。健康のためのスポーツが逆に健康を損なうことになりますので、多量の発汗を伴う長時間の運動では水だけではなく、スポーツドリンクを併用して水分補給をするように心がけてください。ただし、スポーツドリンクだけを多量に飲むと高血糖になることでの体調不良(ペットボトル症候群)になる恐れがあるので、あくまでも併用という形で摂取してください。

資料
1) Nutrients. 2023; 15(15): 3333.
2) Sports Med. 2022; 52(2): 349-375.
3) https://www.nsca.com/education/articles/kinetic-select/hydration-and-performance/

“運動は薬”外来の詳しい内容はこちら
https://www.miyanomori.or.jp/undou/

<プロフィール>

鐙谷 武雄(あぶみや たけお)
当院副院長、専門は脳神経外科で、中でも脳血管障害(基礎研究に長らく従事してました)
運動習慣は、出来るだけ毎日のストレッチと8㎏ダンベルでの筋トレ、週2回程度のランニング、不定期の10分間HIIT(高強度インターバルトレーニング)、たまのゴルフです