階段はお金のかからない最良のフィットネスです
第18 回目のブログです。今回は、階段を利用することが、特別な道具やジム利用が不要で、お金のかからないそして疾患予防につながる最良のフィットネスであることを紹介したいと思います。
地下鉄などの公共施設の階段に「ここまで上がると何カロリー消費」といった表示を目にされることがあると思います。階段利用は通常の歩行より下肢の筋力を使い、さらに骨にかかる機械的な刺激が骨を作る働きに寄与します。階段利用が身体活動であることは言うまでもありませんが、それが病気の予防に繋がるかどうかを知るには医学的研究での評価が必要です。近年いくつかの研究結果が発表されています。
オランダで行われた平均58歳の約800人を対象とした研究では、「毎日階段を登りますか?」という非常にシンプルな質問をし、イエス/ノーで2つのグループに分けました。その後、2つのグループ間でメタボリックシンドローム(内臓脂肪型肥満を背景に、高血圧や高血糖、脂質代謝異常などの病気が重なる状態)の発症に差があるか検討しています。この研究では、以下の5項目(中性脂肪高値、HDLコレステロールの低下、糖尿病、肥満、高血圧)のうち3項目以上があてはまればメタボリックシンドロームとしています。毎日階段を登らないグループでは、メタボリックシンドロームが1.9倍多く発生したと報告されています1)。
さらに、より大規模な調査として、英国バイオバンクの研究データがあります。この研究ではイギリスの中高年のボランティア約50万人を2006年から登録を行い、その後10年以上にわたって長期に追跡調査を行っています。このバンクを使った階段利用に関する研究は二つありますが、いずれも「家の階段で10段分を1日何回登るか?」という質問に基づいてグループ分けをして検討しています。2021年に発表された28万人を対象として階段利用と死亡との関連を検討した研究では、6回以上の階段利用が全ての原因での死亡、がんでの死亡を低下させていましたが、心血管イベントでの死亡とは関連なかったと報告されています2)。しかし、その後、2024年に発表された44万人を対象にした疾患発症との関連についての研究では、6回以上の階段利用で心筋梗塞、心不全、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患、認知症、糖尿病の発症が有意に少なくなっていることが確認されました。2021年の報告の結果より疾患との関連がはっきりした要因としては、対象人数が増えたこと、死亡数でなく発症数で検討したためイベント数が増えて統計的に確度が上がったこと、が挙げられています3)。
日本からの研究としては、大阪の吹田市の30歳以上の住民約7300人を対象とした階段利用と心血管疾患のリスクファクターとの関連を調べた研究があります。日常生活において3階以上の階を登る時に階段を利用するか、もしくは利用しないか(すなわちエレベーター/エスカレーターを利用)を尋ねて、グループ分けをして比較検討をしています。その結果、階段をよく利用する(6割以上)グループとほとんど利用しない(2割以下)グループとの比較したところ、後者のグループで肥満、喫煙、身体活動の低下、ストレスが多く認められるという結果になりました4)。
これらの研究結果から、階段利用がお金のかからない最良のフィットネスであることがお分かりいただけたかと思います。是非、日常のさまざまな場面で階段を利用することを心がけてください。
資料
1)BMC Public Health. 2021; 21: 923.
2) J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2021; 12: 298-307.
3) Am J Prev Med. 2024; 66: 324-332.
4) Environ Health Prev Med. 2024: 29: 26.
“運動は薬”外来の詳しい内容はこちら
https://www.miyanomori.or.jp/undou/
<プロフィール>
鐙谷 武雄(あぶみや たけお)
当院副院長、専門は脳神経外科で、中でも脳血管障害(基礎研究に長らく従事してました)
運動習慣は、出来るだけ毎日のストレッチと8㎏ダンベルでの筋トレ、週2回程度のランニング、不定期の10分間HIIT(高強度インターバルトレーニング)、たまのゴルフです