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寿命の長さは歩く速さと握力の強さで予測出来るようです。

更新日:2026年09月08日
〝運動は薬〟外来

32回目のブログです。運動は寿命を延ばす効果がありますが、今回は寿命の長さを予測する上で、簡便であるのに比較的高い精度の予測につながるとされる運動能力について紹介したいと思います。

疫学研究で寿命の長さに関与する因子を検討したものが数多くありますが、多くは生活習慣病、もしくはその発症の基となる生活習慣を調査項目としているのが一般的です。生活習慣病としては、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満があり、これらの疾患を有していない方が寿命を延ばす事には有利に働きます。生活習慣としては、喫煙、食事、身体活動、ストレス、社会経済状態、などが寿命の長短に関与するとされています。これらの生活習慣(病)というのは、言わば原因であり、最終的には結果としての寿命の長短につながっていくことになります。

そして、原因から結果に行きつくまでの途中経過として、臓器障害や身体能力低下の段階があります。とすれば、原因となる生活習慣(病)よりも、その途中の臓器障害や身体能力低下を検討する方が、より寿命の予測に近づく、すなわち正確な予測につながる可能性があります。臓器障害については画像検査や採血検査が必要であり、広く簡便に調べられるわけではありません。一方、身体能力低下であれば容易に検査出来る可能性があります。そこで調べられたのが、タイトルにある、歩く速さと握力の強さでした。

2000年以降、歩く速さもしくは握力の強さと寿命の関係について、複数の発表なされてきましたが、2015年に世界17か国約14万人を対象としたPUREProspective Urban Rural Epidemiology)研究で、握力が5㎏低下するごとに全死亡リスクが16%上昇することが示されました1)。特にこの研究で注目すべき点は、握力の方が収縮期血圧より死亡リスクを正確に予測しており、より感度の高いマーカーであることが分かったことです。また、一方で、握力は疾患の発症との関連はさほど強くなく、死亡リスクとより密接に関連していることも示されました。これらの結果は、地域、人種、性別を超えて普遍的に認められ、そのデータ取得の簡便性より、握力は臨床場面において、死亡リスクに関する非常に有用な判断材料となると結論付けています1)

歩く速さと握力の強さの両方を同時に検討した研究は、日本2)、英国3)、チリ4)の各国で行われていますが、いずれも寿命の予測につながるという結果であり、やはり人種、国家を超えた共通する現象であることが分かります。特に日本での研究について簡単に紹介すると、65歳以上の約1000人の高齢者について、歩く速さ、握力の強さ、さらに片足立ち時間を実際に測定し、10年間追跡調査を行っています。その結果、3つの身体機能指標はすべて、全死亡、心血管死、およびその他の原因による死亡と有意に関連しており、これらを組み合わせて評価することで、将来の死亡リスクをより正確に予測できることが示されました2)。つまり、握力計とストップウォッチという簡単な器具さえあれば、被験者の身体機能の有効な評価が出来、ひいては死亡リスクについて確度の高い情報が得られるということです。

今後、検討されるべき課題としては、トレーニングやリハビリによって、歩く速さや握力の強さが増強された際に、死亡リスクの低下が起こり得るのか、という問いを明らかにすることがあります。時間のかかる前向き研究となりますが、近い将来に研究成果が報告されることを期待したいです。

参考文献

1) Lancet. 2015; 386(9990): 266-73.
2) J Am Med Dir Assoc. 2016; 17(2): 184.e1-7.
3) Eur Heart J. 2017; 38(43): 3232-3240.
4) Maturitas. 2023:168: 37-43.

“運動は薬”外来の詳しい内容はこちら
https://www.miyanomori.or.jp/undou/

<プロフィール>

鐙谷 武雄(あぶみや たけお)
当院副院長、専門は脳神経外科で、中でも脳血管障害(基礎研究に長らく従事してました)
運動習慣は、出来るだけ毎日のストレッチと8㎏ダンベルでの筋トレ、週2回程度のランニング、不定期の10分間HIIT(高強度インターバルトレーニング)、たまのゴルフです